精神疾患増加が止まらず 平成22年度比3倍に(2024/10/17)
協会けんぽの傷病手当金
協会けんぽは5年度の傷病手当金の給付状況を公表した。給付額は297億1011万円で4年度の329億7393万円から約32億円減少している。減少の要因は新型コロナウイルスの激減だ。新型コロナがほぼすべてを占める「特殊目的用コード」による給付は4年度の56億6862万円に対し、5年度は6億4673万円と、約9分の1に減っている。
新型コロナを除いた給付総額は増加が続く。元年度が213億7221万円、2年度が246億602万円、3年度が255億5218万円、4年度が273億531万円、5年度が290億6338万円ときれいな右肩上がりを描いている。給付額を増加させている大きな要因は精神疾患だ。5年度の精神疾患による受給件数は5万9826件と、平成30年度の3万932件から2倍近く、平成22年度の2万823件から3倍近く増えた。
精神疾患が傷病手当金の給付全体に占める割合も増加が続いている。令和5年度の割合は、新型コロナを除くと、件数では39.6%、給付額では43.2%となった。平成22年度は件数では25.6%、給付額では28.4%だった。件数・給付額ともに15ポイントほど上昇している。
保険給付全体のうち、傷病手当金が占める割合も増加している。協会けんぽの事業年報をみると、30年度に3.5%だった割合は令和4年度には4.8%にまで上昇した。今の時点では財政全体に与えるインパクトは限定的といえるものの、このままの状況が続けば自ずと保険料率アップにつながってくるだろう。
協会けんぽの現在の平均保険料率は10%。多くの中小企業では、この10%という水準が許容できるギリギリのラインではないだろうか。今後も最低賃金は上昇が続くことが予想され、さらには全国平均1500円の達成時期の前倒しも示唆された。加えて8年度からは子育て支援金の拠出開始という実質的な保険料アップも控えている。
協会けんぽには料率アップを回避する意味でも、事業所のメンタルヘルス対策推進を強力にバックアップする取組みを求めたい。6年度の事業計画では、メンタルヘルス対策について、「産業保健総合支援センター等と連携した取組を積極的に推進する」としているが、これだけで十分といえるのだろうか。
たしかに精神疾患を理由とした傷病手当金自体が財政全体に与える影響はそこまで大きいとはいえない。しかし、メンタルヘルス不調による休職者の減少は事業所の生産性アップ、ひいては標準報酬月額の上昇にもつながる。取組みの優先順位を付ける際には、財政への直接的な影響だけでなく、間接的な影響も含めた検討を求めたい。
具体的な取組みを決定するに当たっては、協会けんぽの持つ膨大なデータを活用すべきだろう。事業所に提供を求めている健診データと医療のレセプトデータ、業種、性別、年齢などのデータを組み合わせれば、より立体的な取組みが検討できるのではないだろうか。不調者が多い業種に対して、重点的なポピュレーションアプローチを実施しても良い。
都道府県ごとの取組みを保険料率に反映させるインセンティブ制度の指標にメンタルヘルス対策を加えるのも一案だ。具体的な項目としては、ストレスチェックの実施率やメンタルヘルス対策に取り組む事業所の割合などが考えられる。増加に歯止めがかけられる、効果的かつ具体的な施策の実施を求めたい。
(以上 労働新聞より)
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