運送業 運転者の健康管理を 早い段階で予防重要(2024/11/1)
繁忙期向け事故防止へ
健康起因事故とは、脳・心臓疾患や体調不良などにより、運転操作に支障をきたし、交通事故を起こしてしまうことなどをいう。国土交通省によると、バス、タクシー、トラックなど事業用自動車の健康起因による事故が近年増えているそうだ。平成30年をピークに減少傾向にあったものの、令和3年より増加傾向にある。トラックをみると令和元年は77件だったが、その後100件を超える件数で推移している。今後、年末の繁忙期を迎え業務量や交通量が増え、労働災害発生の危険性が高まる。事業者としては、リスク回避へ未然防止を図っておきたい。
トラック運転者には、脳・心臓疾患、メタボリックシンドローム、睡眠時無呼吸症候群などを抱えるハイリスク者が多く懸念されているところだ。たとえば、生活習慣については、まず食習慣の乱れが指摘される。不規則な勤務形態によって食事時間や場所が制約され、欠食したりコンビニエンスストアの商品で簡単に済ますなどの傾向があるという。欠食した場合に空腹感を満たすための間食、運転中の眠気覚ましで加糖飲料を摂取する習慣がある人も少なくない。缶コーヒーなどは砂糖の含有量が多く、過剰な摂取は肥満や糖尿病の原因となる。
運転席に座っている時間が長いため、運動不足にもなりがちだ。運動の不足は肥満、高血圧、脂質異常、高血糖の大きな原因になる。運行中のトイレ回数を減らすため、あえて水分を控えるドライバーもいるそうだ。水分不足で座っていると血流が悪くなり、血栓の原因になるという。
このほかにも、喫煙率の高さや睡眠時間の少なさなども問題になっている。
健康起因事故は、長期にわたる不規則な生活習慣や悪い条件での勤務環境が影響する。全ト協では、このほど「トラック運送事業者のための健康起因事故防止マニュアル」を改訂。疾病を患う前に日頃から生活習慣や就労条件を良好に保ち、健康起因事故のメカニズムを踏まえ、より早期の段階で対策を講じ、未然防止を図ることが重要とした。
まず、運転者の健康を確保するには定期健診により身体の状態を把握する必要がある。マニュアルでは定期健診の受診率を高める対策として、労働者の勤務状況を把握して健診日を早期に設定し、早いタイミングで業務シフトを調整するよう求めている。このため、本社・各営業所の管理職などに定期健診の目的について理解してもらい協力を得ることが必要とした。さらに定期健診の受診を就業規則に記載し、理由なく受診をしなかった場合には、必要に応じて懲戒処分の対象にするよう検討するとしている。
健診結果によっては要再検査などが求められるが、口頭での受診勧奨のみでは「忙しい」、「面倒だ」と放置されてしまう懸念がある。マニュアルでは受診勧奨を事業者が指導履歴として記録を残すとした。具体的対策として「イエローカード指示書」を例示しており、有所見項目を列記し再検査を要請する内容となっている。また、有所見者は「イエローカード回答書」により、受診結果を書面で報告するというもの。明文化による指導の「見える化」が重要であるとした。
厚生労働省は11月を「過労死等防止啓発月間」としている。自動車運転の業務は今年の4月から時間外労働の上限規制が適用されるようになり、遵守徹底が求められているところだ。過労死や過重労働はもちろん、健康障害起因事故への影響も意識したい。
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