就業規則 別条件で合意成立を認めず 会社の説明一切なく (2025/2/7)
千葉県内の運送会社で働く労働者が残業代の支払いを求めた裁判で、東京高等裁判所(佐々木宗啓裁判長)は、完全歩合制の合意成立を認め、請求をすべて棄却した一審判決を取り消し、同社に230万円の支払いを命じた。同社は就業規則で「賃金は基本給、諸手当、割増賃金」で構成するとし、完全歩合制の規定を設けていなかった。同高裁は就業規則と異なる労働条件成立に当たっては、労働者の同意だけでなく、自由意思に基づく同意と認められる客観的・合理的な理由が必要と指摘。同社は具体的な説明をしておらず、完全歩合制が就業規則の条件より有利なのか不利なのかを判断できなかったとして、合意成立は認められないとした。
労働者は平成30年7月に千葉県内の運送会社と期間の定めのない労働契約を結んだ。同年10月まではライトバン、11月以降はトラックを運転し、貨物の運送業務に従事していたが、令和2年4月18日に退職した。
入社の経緯は先輩の紹介で、採用面接の際、労働者は「フリードライバー」として働き、手取りで30万円の給料が欲しいと希望した。同社代表者は、フリードライバーは完全歩合制の雇用形態で、歩合の内容は運賃の30~70%、未経験者で手取り30万円は難しいと伝えた。労働者は30万円が確保できない点を不満に感じたが、後日、上記の条件を受け入れる旨の意思表示をし、採用が決まった。
同社が平成30年4月に所轄の労働基準監督署に届け出た就業規則と賃金規程は、賃金は①基本給、②諸手当および③割増賃金で構成すると定めている。完全歩合制にかかる規定はなかった。
同社のフリードライバーは、単発の依頼に対応して荷物を集配する業務を行っている。配車と歩合割合は同社代表者が決定していたが、給料明細には月の売上げがいくらで、何%の歩合を適用したのかは記載されていなかった。労働者の月給は多い月で40万円、少ない月で25万円ほどだった。労働者は時間外労働の割増賃金の支払いなどを求める裁判を起こした。
一審の千葉地方裁判所は完全歩合制の合意成立を認め、労働者の請求をすべて棄却した。月給に変動があったにもかかわらず、労働者は疑義を示さなかったと指摘。就業規則が定める条件と完全歩合制を比べると、完全歩合制が必ずしも不利であるとも言い難いとして、合意が無効になるとは認められないとした。
二審の同高裁は一転して、完全歩合制の合意成立を否定し、同社に227万9974円の支払いを命じた。就業規則に定められた労働条件と異なる内容の合意の成立に当たっては、労働者の同意の有無だけでなく、労働者の不利益および程度、同意に至った経緯などに照らし、同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかという観点からも判断されるべきであると強調(最判平28・2・19)。採用の経緯から、労働者が完全歩合制へ同意したことは認めたものの、同社代表者は割増賃金の支給の有無や計算方法などを具体的に説明しておらず、自由意思に基づいて歩合制に同意したといえる合理的理由が客観的に存在するとはいえないとした。
同社は就業規則を従業員に周知していないため、就業規則に定める労働条件は無効と主張した。同高裁は届出制度の趣旨から、就業規則を下回る内容の労働契約を締結しないと労基署に届け出ていながら「労働者への周知を欠くことを理由にその無効を主張することは許されない」と退けている。
(以上 労働新聞より)
実務上、非常に重要な判例です。就業規則に定めている働き方以外の働き方で雇用契約するケースはあります。その際、会社側の説明責任は非常に重要になってきます。就業規則に記載されていないのですから、細部にわたり詳細な説明責任がありますね。しかし、この運送会社・・・「就業規則を周知していないから労働条件は無効」と言っていますが、どんな弁護士がついていたのでしょうか・・・あまりに酷すぎて・・・開いた口が塞がりません・・・。
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